Chikanism

現実と非現実のあいだ

ありきたりなことしか言えなかったあの日

寒い日だった。カナダではボクシングデーの次の日で、わたしはその名残を楽しもうとダウンタウンに行ったけど、結局ロクシタンのフェイスクリームしか買わずにただ街を歩いていた。

たまたまツイッターを見ると日本の友人が悩んでいるようなツイートをしていたので、LINEをすると、「通話してもいい?」と来た。そのときわたしのiPhoneWi-Fiのあるところでしかネットに繋げなかったので、慌ててWi-Fiのある場所に移動した。「いいよ」と返す。その後クリスマスマーケットにいく約束をしていたので、時間が読めないなあと思いつつ、サンドイッチ屋さんのほうのサブウェイの店舗の前で、(勝手に)Wi-Fiに接続させてもらって、彼女に電話した。

 

「どうしたん?」と言うと彼女はちょっと黙って、「今さぁ、実は不倫してて」と言った。恋愛関係だろうとは思ったけど、まさか不倫だとは思わなかった。

わたしと彼女は好きなアーティストの追っかけ活動中に知り合って、まだ一度しか直接会ったことはなかった。

彼女が語り続ける話を、わたしはただ聞き続けた。アドバイスなんてできるわけもなく、そうだよね、わかる、と言うことしかできなかった。

外はだんだんと暗くなって、寒かった。徐々に冷えていく指先とつま先が辛かったけど、動いたらWi-Fiがなくなって通話が切れてしまうので動くに動けなかった。

 

クリスマスマーケットに行く約束をしていた相手は、やることが終わらないと言ってなかなか来てくれず、わたしは連絡を待ちながら彼女の話を聞いていた。まだLINE来ないかな、とたまに確認しながら。

「なんかさ、どう転んでも良い方向にいかないことはもうわかってるじゃん」彼女は言う。そうだね、としか言えないわたし。遠く離れたバンクーバーで、直接会って話を聞くことさえできないわたしができることなんて、ゼロに等しい。「でもさ、とりあえず○○が思ってることはちゃんと言ったほうがいいよ」なんてありきたりなことを言った。

 

しばらくして彼女は「バンクーバーはどう?寒いの?英語は話せるようになった?」などと言った。「日本に帰ったら会おうね」と言って電話を切った。ちょうどその頃に待ち合わせ相手から連絡が来て、寒くて凍えそうだ、と思った。

 

あれから2年。とっくに日本に帰ってきたけど、彼女には会っていない。あのあとその恋愛がどうなったかも知らない。ただサブウェイを見ると思い出す。凍えそうになりながら聞いた、どうしようもない恋愛の話。