Chikanism

日々感じること考えることを大事にしたい感じ。

緑のワンピース

京都の伊勢丹の屋上みたいなところ、デートのあとに座って話したりするのに御用達の場所。

わたしたちは京都タワーの地下で夕飯を食べて、屋上で座って話をしていた。

その日は焼き鳥を食べた。彼はハイボールが好きだ。わたしは好きじゃないけど。たぶんカルピスサワーを頼んだ。カルピスサワーのサワーってなんなんだろう。

 

当時わたしは就活をしていた。どの会社を受けても「なんで薬剤師にならないの?」って言われてた。(まぁ今も言われるけど)

たぶん6月くらいだったと思う。わたしは内定をもらったのが遅かったので、薬剤師にならないことをよく不思議がられるっていう話をしていた。でもIT系の会社に就職したいんだよね、とも。

 

わたしはそんなに話す方でもないし、彼もそうだったので(今思えば話が合わなかっただけかもしれない)、ベンチに座って、蒸し暑い空気に包まれて、京都の街をぼんやり見つめてぽつぽつと話をした。

「単純に入学したときは薬に興味があって、今は違うだけなんだけどさ」とわたしは言って、つま先を見つめた。買ったばかりの雨の日用のヒールが低めのパンプス。彼は身長が高い方ではなかったので、雨じゃないけどそれを選んだ。

 

「…でもさ、薬学部に入ったから、今やりたいと思ってることを見つけられたんだよね」と彼が言った。「うん、そうなんだよね」。わたしはつま先を見つめながら答えたけど、まさかそんなことを言ってくれるひとがこの世界にいるなんて思ってもなかった。それくらい、嬉しかった。自分の選択を肯定してくれることが。

 

「このワンピースさ、」そのとき着ていたのは緑のワンピース。1万円くらいした。当時はバイトを週4フルタイムくらいでしてたので、デートのために買った。めちゃめちゃかわいかったのだ。

「かわいくて試着したら店員さんにこの緑似合うひとなかなかいないですよ〜っておだてられてさ、つい買っちゃった」とわたしは言った。彼は「思う壺じゃん」と言って笑った。そこは似合ってるよとか言うところでしょ。まぁいいけど。

 

 

これは付き合う前の話で、付き合ってから電話中にふと「あのときあんなふうに言ってくれたのすごい嬉しかった」と言ったら「俺そんなこと言ったっけ?…でも照れるな」と彼は言っていた。

つくづく何気ない一言に救われてきたと思う。きっと言った本人は覚えてもないような。

 

彼とは別れたし、そのときのワンピースももう似合わない気がして売ってしまった。でも今もあのときの言葉には救われ続けている。わたしが何回も遠回りしてきたことも全部含めて肯定してもらえた気がしたから。